横浜綜合法律事務所 コラム

大島 正寿「バイオマスタウンを旅して」

弁護士会の環境問題委員会の現地調査で、先日、岡山県の真庭(まにわ)市を訪れた。

真庭市は岡山県北部の山間地域にあり、人口5万人弱、面積は横浜市の約2倍(828平方キロメートル)で、その8割を森林が占める。主な産業は林業および木材加工業である。

真庭市は、平成18年に国(農水省)から「バイオマスタウン」の認定を受けている。バイオマスとは、生物由来のエネルギー資源のことだが、真庭市では、木材の伐採や加工の際に生じる木くずを加工して燃料を作り(チップとかペレットと呼ばれる)、それを火力発電に利用したり、家庭用ストーブなどに利用している。地域で発生した廃棄物を利用してエネルギー需要をまかない、新たな地場産業が創出されることで地域振興にも役立つ、という画期的な試みを行っており、テレビ番組や書籍でも紹介されている。

市の観光協会が主催する「バイオマスツアー」に参加し、詳しいガイド付きで、市役所、木材会館、製材工場、バイオマス集積基地、火力発電所、などを1日かけて回り、現場での取組を見せていただいたので、地域が一体となった活性化策を実感することができた。

バイオマスタウン構想は、どこでも採用できる制度ではないが、地域の特性を生かした環境対策として参考になる事案であり、今後も検証していきたいと思う。

1月 20, 2017

左部 明宏「なぜ司法修習制度が必要なのか」

平成25年4月から平成28年3月までの3年間、最高裁判所司法研修所の民事弁護教官を務めた。裁判官・検察官・弁護士になるためには司法試験に合格しなければならないということはよく知られているが、それだけではこれら法曹になることは出来ない。司法研修所における司法修習を終了し、最後に2回試験と言われる試験に合格しなければ、法曹になることは出来ないのである。

なぜ司法試験に合格した後にさらに研修を課さなければならないのか、市場原理、自由競争に任せて、能力の無い法曹は自然淘汰されればいいのではないか、そんな声もよく聞く。確かに、司法研修所の運営や施設の維持管理、職員・教官の報酬、数年前までは司法修習生に給与が支払われており、決して少なくない税金が使われている。だから、裁判官・検察官は採用した後にそれぞれ裁判官研修・検察官研修を実施すればよいのではないか、弁護士も、法律事務所が雇用した弁護士の能力向上に責任を負えばよいし、どの事務所にも属さない新人弁護士がいたとしても、能力がなければ淘汰されるだけであり、弁護士の能力向上のために税金を使う必要はない、という主張である。もっともらしい意見であるが、おそらく法曹界の中でかような主張を支持する人はごく少数であると思われる。それはなぜだろうか。

現実的な理由としては、裁判官・検察官にとっては司法修習期間が良き人材をリクルートする機会となっているということである。司法試験の成績だけでは、その人が裁判官・検察官に適した能力を本当に持っているかを知ることは出来ない。また、人格的、精神的にこれらの職業に耐えうるか、試験だけでは判断できない。修習中に与えられた課題にいかに向き合っているか、また普段どのような立ち居振る舞いをしているか総合的に見て適性を判断することが出来る機会となっているのである。

弁護士会としては、少し違う理由がある。おそらく、弁護士として最低限の質を確保したうえで法曹として世に出さなければならない。弁護士として最低限の基準はクリアしてもらわなければ弁護士に対する信頼を壊してしまうことになりかねないと思っている。

しかし、司法修習制度が必要とされる真の理由は、このような内部だけの都合によるものではない。真の理由はもっと大きなところにある。想像して欲しい。自分や身内が事件や裁判に巻き込まれたとき、能力の劣る、人格のおかしい裁判官や検察官に事件を処理され、裁判が行われたとしたら、その判決に素直に従うことが出来るだろうか。一生に一度あるかないかのトラブルに巻き込まれ、その処理をインターネットで探した弁護士に依頼したところ、その弁護士はろくに法律も知らず、裁判の対応も素人同然だったとしたら、訴訟に負けても納得できるだろうか。その人にとって一生に一度あるかないかのトラブルである。どの弁護士に依頼するかは自由なのだから、良い弁護士と悪い弁護士を見分ける能力を持っていない者が悪いと言い切れるだろうか。そして、なによりも紛争や裁判を法に従って適切に解決するためには、能力を持った法律家がお互いの意見を戦わせることが必要なのである。きちんとした法的能力を有する者同士が真剣に争うからこそ、真の争点があらわれ、当事者の納得する解決が得られ、批判に耐えうる判決がされることになる。

司法研修所制度は、このように法治国家を維持する一つのシステムなのである。良き人材の確保が国民の信頼に値する裁判制度、検察制度の基礎となることは疑いの無い事実であるし、弁護士の質を確保することは、法治国家を草の根から支えることに他ならないし、弁護士制度に対する信頼の確保につながるのである。法曹となろうとするものを一堂に集め、きちんと教育をすることにより、一定の能力と共通の価値観を有する法曹を育てることが出来る。そして、彼らを研修所から実務家法曹として送り出すことにより、法の下、安定した紛争解決システムが機能するのである。

司法修習システムは、あまりなじみがないと思うが、このような役割を持って運用されていることを理解して欲しい。

11月 9, 2016

榎本 ゆき乃「預金等の相続について」

被相続人が財産を残して亡くなった場合、相続人間で遺産をどのように分けるか、遺産分割協議をする必要があります。そして、協議が調わなければ家庭裁判所で調停をし、それでもだめなら審判がなされて、遺産の帰属が決まることになります。
ところで、被相続人が残した財産の中には銀行預金等の預金があることがほとんどです。この預金については、法律上、遺産分割の対象にならない、というのは御存知でしょうか? 銀行預金は銀行に対する預金債権ですが、このような可分な債権は、相続によって相続人に当然に分割され(法定相続分で)、遺産分割の対象にならないというのが最高裁の判断なのです。但し、相続人の全員が遺産分割の対象とする合意をすれば別で、たとえば、不動産と預金があり、一人の相続人が不動産を相続し、もう一人の相続人が預金の全額を相続するということもできることになるわけです。言い換えれば、このような合意がなければ、遺産分割の対象にならないのです。
また、預金の場合は上記のとおりですが、では、投資信託の場合はどうか、国債の場合はどうかなど、その種類によって、それが法律上遺産分割の対象になるのかならないのかについて裁判で争われており、近時それぞれ最高裁の判断が出ました。ここでは詳細は割愛しますが、その債権の性質によって判断がなされています。
ただ、現在、相続法の全体について改正が検討されており、上記のような可分債権の当然分割についての見直しも検討事項の一つとなっています。預金は、不動産などとは異なり、遺産を分割する場合の調整として有用であるため、上記のように、合意がない限り当然分割として遺産分割の対象とならないというのは不合理だという考え方もあり、今後の法改正で、預金等の可分債権も、合意なくして遺産分割対象財産となることになるかもしれません。
相続法制改正の動向に注目しています。

10月 14, 2016

渡部 英明「刑事司法改革関連法について」

平成28年5月24日、衆議院本会議で「刑事訴訟法等の一部を改正する法律」(いわゆる刑事司法改革関連法)が可決、成立した。刑事司法改革関連法では、これまで密室で行われていた警察・検察の取調べのうち、裁判員裁判対象事件や検察の独自捜査事件で逮捕・勾留中の被疑者に限り、被疑者の同意があった場合には録音・録画(可視化)することが可能になった。今回の法改正は取調べの可視化の一部に限られたが、取調べが任意に行われたのか否かを検証するために、取調べ状況を録音・録画することになり、これにより冤罪の防止につながると期待されている。
ただ、暴力団等の組織犯罪について、取調べを録音・録画されるのであれば、一切しゃべらないという被疑者も現れることが予想され、事案の真相解明という刑事訴訟法の目的からすると、犯罪の特殊性を考慮せずに一律に取調べを可視化するという手法が合理的なのか否かは今後の課題といえる。
また、通信傍受の対象犯罪が薬物や銃器犯罪等に限られていたものを複数犯による殺人、傷害、逮捕・監禁、窃盗・強盗、詐欺・恐喝、児童ポルノ等にまで拡大して、組織犯罪の解明ができるようにした。
さらに、司法取引も導入された。この手法について、実務において、今後、どのような影響を与えるのかは未知数であるが、他人の犯罪事実を明らかにするための供述をすることで不起訴や特定の求刑をすることの取引をすることによって冤罪事件が起きる可能性があると指摘する意見もあり刑事弁護において、新たな事案が増えてくるのではないかと危惧している。
今回の改正は、組織犯罪の解明に際し、通信傍受や司法取引等捜査機関にその手段を与える一方、被疑者の権利擁護のため取調べの可視化も一部認めることにより、バランスを図った法案のようである。
この刑事司法関連法案は様々な論点で様々な所で賛成・反対の意見表明が出されて成立したものなので、成立後もその運用に際し、弊害がないかチェックしていくことが肝要である。

9月 12, 2016

湯沢 誠「何故弁護士は凶悪犯人を弁護するのか」

残念ながら凶悪犯罪に関するニュースが絶えることはない。また死刑を宣告された死刑囚の死刑執行のニュースも時折報道される。そのような機会に犯罪者の弁護人である弁護士がマスコミに登場し、そのコメントが報道されることも多い。
「何で弁護士はあのような凶悪犯人を弁護するんですか。お金のためですか。」私もこのような質問を少なからず受けたことがある。凶悪犯人が自己弁護をするなどもってのほかであり、それを助ける弁護士は必要悪だと考えるのも無理からぬことと思われる。
しかし、一方で死刑の判決を受けた「犯罪者」が再審請求を行い、無罪となったとの報道も極たまにではあるが、見聞きするところである。
刑事訴訟法289条1項は「死刑又は無期若しくは長期3年を超える懲役若しくは禁固にあたる事件を審理する場合には、弁護人がなければ開廷することはできない」と定めており、被告人が起訴された後に私選弁護人を選任しない場合は、裁判所が国選弁護人を付することになっている。
平成16年には国選弁護人制度が拡充され、上記と同じ重大事件については、被疑者段階にも国の費用により弁護人が付されることになった。
選任された弁護人には、日弁連の定める弁護士職務基本規定46条の「弁護士は、被疑者及び被告人の防御権が保障されていることにかんがみ、その権利及び利益を擁護するため、最善の弁護活動に努める」との規定が適用されるため、被疑者・被告人の利益に反する行動や発言をすることは禁じられている。このため、たとえば、被疑者・被告人が捜査機関に対しては否認しているにもかかわらず、弁護人に犯罪を行ったことを認めた発言をした場合に、それを捜査機関やマスコミにリークした場合は日弁連より懲戒処分を受けることになるのである。
かくして、弁護士は裁判所より凶悪犯人の弁護人に選任された場合は凶悪犯人のために「誠実に」職務を遂行せねばならないのである。ストーカー殺人など極めて一方的で、被告人に酌むべき情状が全くないと思われるような事件の弁護を担当することとなった弁護人は極めて辛い立場に置かれることになるのである。弁護士のこの辺の事情をご理解いただきたいと考えて本稿をしたためた次第である。

7月 22, 2016

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