成年後見の事務の円滑化を図るための法改正
「成年後見の事務の円滑化を図るための民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律」が平成28年10月13日より施行された。
改正のポイントは、①本人宛の郵便物を成年後見人への転送が可能になったこと、②本人の死後の事務について成年後見人の権限が定められたことの2点である。
まず、①についでであるが、成年後見人は本人の財産を管理しなければならないところ、身近な親族などがいない場合、どこにどんな資産を保有しているのかわからないことがよくある。そのような場合、本人宛に届く郵便物を手掛かりとして、銀行や証券会社との取引の有無などを調べることになる。しかし、これまでは本人宛の郵便を成年後見人の下へ転送する制度がなかったため、成年後見人が定期的に本人の自宅へ郵便物の確認に行かなければならなかったり、本人が介護施設に入居しており住民票所在地にすでに自宅がないような場合、本人の財産の把握に支障が生じていた。そこで、家庭裁判所の審判によって、本人宛の郵便物を一定期間全て転送する制度が設けられたのである。
次に、②についてであるが、本人が亡くなった場合、成年後見人の任務もその時点で終了するのが原則である。したがって、本人の死亡後は、管理していた財産を相続人に引き継ぐ以外のことはできない。しかし、相続人がいなかったり、疎遠で連絡がとれなかったりすることがある。その場合、一番問題となるのは亡くなった本人のご遺体をどうするのかということであった。そのまま放置するわけにもいかないため、これまでは法律的な根拠が曖昧なままで、やむを得ず、成年後見人が火葬や埋葬を業者に依頼し、その費用を支出することがあった。そこで、今回の改正により、家庭裁判所の許可を得て、成年後見人が本人の死後に火葬や埋葬といった手続きをとることができるようになったのである。その他に、本人の債務(医療費など)の支払いも可能となった。
今回の改正によって成年後見の事務手続がより円滑に遂行されることが期待されている。
2017年2月17日
成年後見・財産管理「成年後見制度と選挙権」
判断能力が不十分である人々は、不動産や預貯金などの財産を管理したり、介護サービスや施設への入所に関する契約を結んだりすることが難しい場合があります。ときには、自宅を安価で売却してしまうなど自己に不利益な契約であっても、その判断ができずに契約を締結してしまいかねません。そこで、判断能力が不十分な人々が損害を受けないようにするために、本人の判断能力を補い、支援するのが成年後見制度です。
そうであるにもかかわらず、これまでは、成年後見制度のうち「後見」が開始された本人については、公職選挙法の規定により、選挙権が制限されていました。
そこで、平成23年に、「後見」が開始された本人の選挙権を制限する公職選挙法の規定は選挙権を侵害し憲法違反であるとして、選挙権を行使しうる地位があることを確認する訴訟が東京地方裁判所に提訴されました。その後、さいたま、札幌、京都でも同様の訴訟が提起されました。
そして、平成25年3月14日に東京地方裁判所は、「後見」が開始された本人の選挙権を制限する公職選挙法の規定を違憲と判断し、選挙権を行使しうる地位を確認する判決をしました。
この判決は、「後見開始の許否の際に判断される能力は・・本人保護の見地から『自己の財産を管理・処分する能力』を判断することが予定されているのであって・・財産管理能力の有無や程度についての家庭裁判所の判断が・・主権者であり自己統治をすべき国民として選挙権を行使するに足る能力があるか否かという判断とは、性質上異なるものであることは明らかである」と述べ、結論として、「後見」が開始された本人の選挙権を制限する公職選挙法の規定を違憲と判断したのです。
その後、平成25年5月に、「後見」が開始された本人の選挙権を回復すべく、公職選挙法の一部を改正する法律が成立、公布されました。
これにより、平成25年7月1日以後に公示・告示される選挙について、「後見」が開始された本人は、選挙権・被選挙権を有することになります。
2013年12月12日